2024年12月20日、国家市場監督管理総局が「会社登記管理実施弁法」(以下「実施弁法」)を公布した。この「実施弁法」は、2025年2月10日から施行される。「実施弁法」は、「中華人民共和国会社法」(以下「会社法」)及び「『会社法』の登録資本登記管理制度の実施に関する国務院の規定」における会社登記に関する事項を、さらに具体化・規定したものであり、外商投資の会社登記管理にもこの弁法を適用することが明確にされている。本稿では、以下のいくつかの面について重点的に解説する。
一、出資方法について
「実施弁法」では、出資方法について「会社法」とは異なる規定を設けており、「会社法」で定められた出資方法に加えて、法律で権利の帰属が明確に規定されているデータやネットワーク上の仮想財産を価額評価して出資とすることを可能とする内容が特に追加された。
ただし、この規定があったとしても、データ又はネットワーク上の仮想財産等による出資には、なお慎重である必要がある。理由は次のとおりである。
まず、中国の各規定では、理論上はデータが取引可能な財産の範疇に属することが多くの場合認められている。しかし、その権利の帰属、移転、価値評価などに関する具体的な規定には、依然として不明瞭な部分が残っている。ネットワーク上の仮想財産に関しては、その権利の帰属、取引可能性、価値評価がプラットフォームごとの異なる規定によって差異が生じている。同時に、「実施弁法」で出資として認められるデータや仮想財産は、法律でそれらの権利帰属などが規定されている場合に限られる。そのため、関連する法律がまだ整備されていない現状では、データや仮想財産を用いた出資が会社登記機関で問題なく受け入れられるかどうかは不透明である。
次に、一部のデータや仮想財産を譲渡する際には、同意の取得が必要となる場合があり、さらに、その同意が撤回される可能性がある。その場合、こうしたデータや仮想財産を用いた出資には、より多くの障害や潜在的なリスクが伴うおそれがある。
最後に、「実施弁法」では、非貨幣財産による出資について、法に基づいて価値を評価し、財産の事実確認を行うべきことが特に強調されている。そのため、出資に用いるデータや仮想財産の価値評価に問題が生じた場合、出資義務が十分に履行されなくなる可能性があり、その結果として、株主や関係者が瑕疵出資に関する責任を問われるリスクが生じる。
一般的に、日系企業の日本側株主がこうした資産による出資を採用するケースは少ない。しかし、今後はこの種の資産に注目し、適切なタイミングで有効活用することも考えられるだろう。当然ながら、データや仮想財産といった新しいタイプの資産を用いた出資についても、「会社法」を遵守することが求められるだけでなく、データや仮想財産に関連するその他の法令にも十分に留意する必要がある。
また、日系企業が中国の国有企業や民間企業などの中国側株主との合弁企業である場合、中国では現在、データ資産を貸借対照表に計上することを奨励・推進していることから、中国側株主がデータ資産や仮想財産を出資に採用した場合、「会社法」に基づき、日本側も中国側の出資充実に関して連帯責任を負う可能性がある。そのため、日本側は単に傍観したり、表面的な確認を行うだけでなく、可能な限り慎重義務を尽くし、出資に関する瑕疵の違約責任について中国側と十分に取り決める必要がある。なお、出資方法においては、こうした新しい方式を採用することはできる限り避けるのが最善といえる。
二、登録資本の払込期限について
「実施弁法」では、会社の登録資本の登記及び払込みについて、より詳細な規定が設けられた。
1. 2024年6月30日以前に設立された既存の有限責任会社については、2027年6月30日までに、払込み未了の出資の期限を5年以内に完了するよう調整し、その内容を会社定款に記載する必要がある。同時に、株主も、調整後の出資期間に従い、出資を完了しなければならない。
ここで注意すべき点は、2027年6月30日までに出資期限を調整する際、任意の登記日から2032年6月30日までに出資を完了するように調整すればよいわけではなく、変更登記が行われた日から5年以内に出資を完了するよう調整しなければならないという点である。なお、既存の株式会社については、登録資本の全額を2027年6月30日までに払い込まなければならない。
2. 会社の増資については、有限責任会社は、変更登記日から5年以内に全額を払い込まなければならない。一方、株式会社は、新たに増加した株金を全額払い込んだ後でなければ変更登記を行うことができない。
3. 既存の会社の生産経営が国の利益又は重大な公共利益にかかわる場合には、国務院の関係主管部門又は省級人民政府が意見を提出し、国家市場監督管理総局の同意を経て、2024年6月30日までに確定した出資期限に従い出資することができる。
4. 既存の会社に以下の3つの状況の一つがある場合、会社登記機関は、会社の経営状況、株主の出資状況等を調査し、かつ、出資期間の調整を求めるか否かを決定することができる。3つの状況とは次のとおりである。
(1)払込引受けの出資期限が30年以上
(2)登録資本が10億人民元以上
(3)明らかに客観的常識に適合しないその他の状況
会社が上記3つの状況に該当し、市の市場監督管理局(以下「市監局」)が検討判断、評価を経て、会社の出資期限や登録資本に顕著な異常がある、又は真実性や合理性の原則に背いていると認定した場合、法に基づき会社に対して適時に調整をするよう求めることができる。しかし、「実施弁法」では出資期限の調整幅に関する制限が設けられていないため、会社がこれらの状況に該当し調整を求められた際に、受け身になって対処が間に合わなくなることを避けるため、前もって計画を立てておくべきである。
三、払込済みの出資額等の公示について
有限責任会社の株主が払込みを引き受け、実際に払い込んだ出資額、出資方式及び出資日、株式有限会社の発起人が購入を引き受けた株式数等の情報については、「実施弁法」において、それが発生した日から20業務日以内に国家企業信用情報公示システムを通じて社会に公示することが求められている。「会社法」でも関連情報の公示が義務付けられており、規定どおり適時に真実の情報を公示しない場合には罰則が科される。会社法の規定によれば、会社が法どおりに関連情報を開示しなかった場合、又はありのままに公示しなかった場合は、会社登記機関が是正するよう命じ、1万元以上5万元以下の罰金を科することができる。情状が重大であるときは5万元以上20万元以下の罰金を科するものとされ、直接に責任を負う主管者その他の直接責任者に対しては1万元以上10万元以下の罰金が科される。一般的に、日系企業において実際払込みの期限に関する大きな問題は生じにくい。しかし、払込状況の公示については、担当者がうっかりして適時に公示できていない可能性があるため、(「実施弁法」の施行を待つことなく)早い段階で公示が完了しているかどうかに注意を払う必要がある。もちろん、この払込済み情報が十分に遍く公示された後は、日系企業にとって、債務未払いの会社の債務者の株主、さらには職務失当董事に対し、出資義務を督促するかどうかを検討するのにも有益である。
四、法定代表者についての登記及び董事・監事・高級管理者の届出(備案)における身分確認
「実施弁法」第17条の規定によれば、会社の法定代表者、董事、監事、高級管理者、株主等は、法により人身の自由を制限され、実名認証システム、本人による現場手続又は公証文書提出等の方式を通じて身分情報を確認検査するすべがない場合には、関連する国家機関が許可する方式に従い実名検証をすることができる。この文章上は、本条が直接対象としているのは、関連人員が法により人身の自由を制限され、身分確認が実施できなくなった場合である。しかし、裏を返せば、通常の状況での会社の法定代表者、董事、監事、高級管理者、その他の管理者の登記変更については、実名認証、本人の現場手続、公証文書提出といった方法を通じて身分確認を行う必要があると解釈できる。
日系企業にとって、外国人の自然人株主、高級管理者、董事、監事が中国で身分確認を行うことは、オンライン・オフラインを問わず、一般的に一定の困難や不便を伴う。上海市の一部の区の市場監督管理部門に問い合わせたところ、現時点では、上海市における海外の自然人の身分確認は、パスポートのコピーを提出し、そのコピーに本人が署名する方法が引き続き採用されており、他の要求は特に提示されていないという。しかし、筆者は最近、他の省・市において、外国人が現場で確認を行えない場合、市監局が外国人のパスポートに対するハーグ認証文書の提出を求める場面に遭遇した。このほか、「実施弁法」の施行に伴い、その時点での実際の運用次第では、上海のような地域でも外国人に対して現場での身分確認や、身分証明書に対する公証認証が求められる可能性は否定できない。
五、株主、法定代表者、高級管理者の変更又は会社の抹消を通じ、悪意をもって債務の回避や行政処罰の回避を行った場合に対する処罰について
「実施弁法」第20条には、「申請人が会社法人の独立した地位及び株主の有限責任を明らかに濫用し、法定代表者、株主若しくは登録資本の変更又は会社の抹消等の方式を通じ、悪意により財産を移転し、債務を逃れ、又は行政処罰を回避し、社会公共利益に害を及ぼすおそれのあることを証明する証拠がある場合には、会社登記機関は、法により関連登記又は備案を取り扱わず、既に取り扱っていたものについては、これを取り消す」と定められている。
現在、本条の規定の実施に関する具体的な付帯措置は定められておらず、悪意のある財産移転や債務回避、行政処罰回避が行われたことや、社会公共利益を損なう状況をどのように認定するかについては未確定である。また、関連の調査が債権者のような利害関係のある第三者によって提起されるのか、それとも登記機関の主導でのみ行われるのかも不透明である。登記機構が監督管理責任を果たさない場合や、監督管理の不備によって関係者に損失を招いた場合、行政再議や行政訴訟を通じて対応することになり、その結果、当事者に新たな手続コストや法的リスクが発生することになる。したがって、本条の具体的な適用については、「実施弁法」の発効後にさらに確認し、整備を進める必要がある。日系企業にとっては、悪意があると認定されないよう、出資持分の譲渡や法定代表者、高級管理者、董事、監事の変更を行う際に、手続の完全性や対象及び理由の合理性に細心の注意を払う必要がある一方で、債務者による同様の悪意ある行為がないかにも注意を払い、本条を法的武器として積極的に活用し、より多くの方法で自らの適法な権益を守ることが求められる。
六、除去登記について
従前より、法定代表者、董事、監事、高級管理者、株主等の情報の登記除去に関する訴訟では、受理、裁判、執行の各段階で実務上の紛争が生じていた。たとえば、事案が民事訴訟の受理範囲にあたるかどうか、原告が提起した登記除去請求を支持すべきかどうか、発効した登記除去判決をどのように執行すべきかについて、各地の裁判所と登記機関の見解が一致せず、異なる理由が示されるなど、統一されたコンセンサスが形成されていない状況である。
この問題に関して、「実施弁法」第23条で明確な規定が設けられ、「会社が効力の生じた法律文書により明確にされる登記備案事項に関連する法定義務を期日・法どおりに履行していないことにより、人民法院が会社登記機関に対し執行協力通知書を送達し、法定代表者、董事、監事、高級管理者、株主、支店の責任者等の情報の除去に協力するよう要求した場合には、会社登記機関は、法により国家企業信用情報公示システムを通じて社会に対し除去情報を公示する」と規定された。この規定は、関連する民事判決の発効後に生じる裁判と執行の連携不備を根本的に解決し、会社登記変更に関する司法判断の執行と行政部門との連携を強化することを目的としている。ただし、「実施弁法」では、司法判断において、判決が出資持分の帰属や高級管理者の任命に関する決議の効力などの内容にとどまり、判決文中に会社が登記に協力することが具体的に明記されていない場合に、強制執行の方法を通じて直接的に除去登記を完了できるかどうかについては明示されていない。したがって、持分譲渡合意の効力などに関する訴訟が発生した場合は、別途個別の訴訟を提起して登記除去を求める手間を避けるため、訴訟上の請求に登記除去を含めることをくれぐれも忘れないようにすることが望ましい。
七、その他
「実施弁法」第28条では、この弁法が外商投資の会社登記管理にも適用されることが明記されている。ただし、外商投資に関する法律、行政法規又は部門規則において、登記について別途の規定がある場合には、その規定が適用される。
2024年7月1日の「会社法」施行以降、日系企業(独資・合資)のクライアントにとって、定款や合弁契約の変更が主な関心事となっているが、一部のクライアントの中には、関係する行政監督管理部門、特に会社登記部門から「会社法」に付帯する関連の細則がまだ発布されていないことから、当面は定款を変更する必要がなく、従業員代表董事や従業員代表監事を設置しなくとも法的リスクはないと誤解しているケースが見られる。しかし、法律上、「会社法」の施行とその法律効果は、法律の発効日から始まっている。また、「会社法」には、定款変更などを付帯細則の発布を待ってから行うべきとの規定は含まれていない。つまり、そのような認識は誤りであり、リスクを伴う。即ち、新「会社法」の改正に基づいて定款の変更を行わない場合、以下のような潜在的リスクが生じる可能性がある。
(1)市監局から他の緊急の変更登記申請を拒否され、公示される。
(2)市監局から是正を命じられ、罰金が科される。
(3)董事会の届出が受理されない。
(4)従業員代表董事を置かないこと自体は、新「会社法」の条文上、決議内容に関係がないように見える。しかし、董事/董事会の組成が不適法と認定された場合、招集手続や表決方式が違法と判断される可能性があり、その結果、董事/董事会の決議が取り消されるおそれがある。
(5)既存の判例によれば、株主総会が監事会/監事を置き、法に従って従業員代表監事を任命していない場合、関連の株主会決議が無効と認定されるおそれがある。これに鑑みると、本来は法に従って従業員代表董事を任命すべきにもかかわらず、実際には任命していない場合、董事会の設立に関する株主会決議も無効と認定される可能性が高い。関連決議が無効と認定されると、会社には適法に設立された董事会が存在しないことになり、その結果、関連する董事会決議や職務履行行為が無効とされるおそれがある。
(6)上記に加え、合弁会社の場合、合弁契約に含まれる多くの重要な権利義務条項(出資持分譲渡の禁止や制限、その手続など)に関わるため、合弁当事者間で権利義務責任や意見の相違による紛争が生じた場合、関連リスクがより広範かつ重大になる。
今回の「実施弁法」の公布と関連規定の詳細化・明確化は、単に「実施弁法」の規定に注意を払うだけでなく、「会社法」の重要な規定に基づき定款や合弁契約の変更を行うことが一刻の猶予も許されない状況にあることを、日系企業に強く喚起するものである。
八、おわりに
「実施弁法」の発効後は、各地域の会社登記機関が、会社登記に関する新たな、より具体的な要求を制定したり、実務で求めたりする可能性がある。そのため、会社の特定の変更登記を行う際には、期限どおりに滞りなく登記を完了できず、不必要なトラブルやリスクが発生するのを避けるためにも、事前に弁護士や管轄の登記機関に相談することをお勧めする。